東京地方裁判所 昭和32年(ワ)7455号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕被告銀行は訴外中国製紙株式会社にたいする貸付金回収のため、支店長級の使用人堀源明を被告の代理人としてみぎ訴外会社に常駐させ、貸付金回収の業務にあたらせ、その目的達成のため同訴外人に訴外会社の経理、特に資金計画の立案、資金の調達、資材の仕入、手形発行の業務に関与させていた。訴外会社は製紙原料であるフエルトの買入方を原告に申し込んだが、その際、被告の代理人である訴外堀は原告にたいし、「訴外会社の買掛代金債務は被告が保証する、こんごは訴外会社のみぎ債務支払いのために振出す手形の表面には「堀」という印を押捺して被告の保証と同一の意味を持たせるから承認されたい」というので、原告会社はこれを信用して訴外会社と取引を開始した。ところが訴外堀は被告を代理して原告にたいし訴外会社の買掛金債務を保証する権限がなかつたのに、訴外堀はその権限があるように振舞つて原告をして被告の代理権に基くものと誤信せしめ、原告は訴外会社の経理状態は不良であるけれども被告の保証によつて支払が確保できるものと考え、訴外会社とフエルトを取引し、売掛代金のうち六十一万円余が回収不能となつた。訴外堀のみぎ不法行為は被告の使用人として訴外会社への債権取立の業務を執行中になされたもので、同訴外人のみぎ保証契約は被告の業務の執行につきなされた被用者の行為であるとして、原告は被告にたいし民法第七一五条による損害賠償の請求をした。
被告は売掛代金の支払保証の事実を否認し、仮定抗弁として、被告銀行が他人のため手形保証ないし支払保証をする場合は必らず保証書を債権者に交付するものであり、被告銀行の内部の手続としても、保証書控に上司の禀議決済を経てこれを保存するのであつて、かような形式ならびに手続によらず、たんに銀行員が手形面上に私印を押捺するが如き形式によつて銀行の支払保証をするようなことはない、このようなことは一般取引の常識であるのに、原告は訴外堀の右のような形式による行為を被告の支払保証に誤解した点に過失ありとして過失相殺の抗弁を提出した。
判決は訴外堀の不法行為につき被告に民法第七百十五条による使用者責任ありと判断し、被告の過失相殺の抗弁については銀行のする支払保証は常に必ずしも特別の形式ならびに手続によることを要しないとして被告の抗弁を排斥した。曰く。
「被告は過失相殺を主張し、被告銀行が他人のため手形保証ないしは支払保証をなす場合は、特別の形式ならびに手続を要するもので、単なる銀行員が手形面上に私印を押捺するが如き形式によつて銀行が支払保証をするようなことはない。このような行為によつて被告が支払保証をなしたものと誤信するにつき原告に重大な過失がある旨主張するが、前記認定のように、原告は被告銀行が手形保証をしたと誤信したのではなく、原告の訴外会社に対する売掛代金債権を保証したものと考えたのであつて、このような契約には特別の要式を必要とするものではなく、右認定の事実によれば、訴外堀が訴外会社とともになした原告に対する欺罔行為は通常人を欺罔するに十分であつて、原告に特に不注意の責むべきものはない。」